◆昔の競売・その2◆
『1億!』
『1億1千万!!』
父と私の声が競売場に響き渡った。一割のキャッシュを執行官の前に積み、声で競る。これはもう男冥利に尽きる仕事であると、少なくともわれわれ競売屋は勝手に思い込んでいた。
父が言った。『素敵な女性でも出来たら競売場に連れて来い。そして、お前の競っている姿を見せてやれ。俺が競り負けてやる』
父とは結局二度ほど競り合い、二度とも私が勝った。
『さあ、来い!!』と私に向かってかけ声をかける父の姿が今でも目に浮かぶ。
私が競売場に出入りするようになった昭和40年代中頃には、M会だけではなく、多数の組関係者がいた。
競りの最中に『降りろ!』『明るい夜ばかりじゃないぞ!』『片腕置いていけ。』等々のチャチが入ることもあり、とても素人が入っていける様な状態ではなかった。競売屋といわれる人たちの中にも今迄会ったことのない様な人がたくさんいた。